参加型エンタメ企画の第一歩:体験設計を始めるための基本プロセス
共創エンタメ・デザインラボへようこそ。
イベント企画の世界に足を踏み入れられたばかりの皆様にとって、「参加型エンタメ」という言葉は魅力的でありながら、どのように具体的に企画を進めていけば良いか、イメージしにくい部分もあるかもしれません。
一口に「参加型」といっても、単に何かを体験してもらうだけではなく、参加者の方々がイベントを通して特別な体験をし、記憶に残る時間を過ごしていただくためには、企画の段階でしっかりと「体験をデザインする」視点が不可欠となります。
この記事では、参加型エンタメの企画を始めるにあたり、最も基本となる「体験設計」の考え方と、具体的なプロセスについて解説します。企画の土台作りに役立てていただければ幸いです。
なぜ「体験設計」が重要なのか
従来のイベント企画では、コンテンツそのものや運営効率に重点が置かれることが少なくありませんでした。もちろんこれらも非常に重要ですが、参加型エンタメにおいては、参加者が「どのような体験をするか」がイベントの成否を大きく左右します。
「体験設計」とは、単にイベントの内容を決めることではなく、参加者がイベントに関わる一連のプロセス(イベントを知る→参加を決める→会場に行く/オンラインにアクセスする→イベント中に体験する→イベント後を過ごす)において、どのような感情を抱き、どのような行動を取り、最終的にどのような記憶を持ち帰るかを意図的に作り出すプロセスです。
参加者の方々は、単に情報を受け取るだけでなく、自ら関わり、何かを生み出し、他の参加者や運営側と繋がることで、より深い満足感を得ることができます。この「深いつながり」や「特別な記憶」こそが、参加型エンタメが目指す価値であり、それを生み出すための設計が体験設計なのです。
体験設計を始めるための基本プロセス
ゼロから参加型エンタメの企画を始める際に、どのようなステップで体験設計を進めていけば良いか、基本的なプロセスをご紹介します。
1. イベントの目的と提供したい「核となる体験」を定義する
まず、なぜこのイベントを開催するのか、イベントを通じて誰にどのような状態になってほしいのか、といった根本的な目的を明確にします。そして、その目的を達成するために、参加者に最も強く心に残ってほしい「核となる体験(コア体験)」は何であるかを定義します。
- 例:
- 目的: ある地域の魅力を知ってもらい、ファンになってもらう。
- 核となる体験: その地域で採れた食材を使って、地元の人々と一緒に料理を作り、食卓を囲む温かい時間。
この「核となる体験」は、企画全体の軸となります。単に料理教室をするのではなく、「地元の人との交流を通じて地域の温かさに触れる」という体験そのものをデザインする、という視点が重要です。
2. ターゲット参加者を深く理解する
次に、どのような人にこの体験を提供したいのか、ターゲットとなる参加者像を具体的に描きます。年齢、性別といったデモグラフィック情報だけでなく、どのようなことに興味があり、普段どのような生活をしていて、今回のイベントに何を期待するのか、といったインサイト(内的な動機や感情)を深く掘り下げて考えます。
ターゲットを深く理解することで、彼らが「楽しい」「面白い」「感動する」と感じる体験の要素が見えてきます。
3. 体験のコンセプトを設定する
定義した「核となる体験」と「ターゲット参加者のインサイト」を踏まえ、イベント全体のコンセプトを設定します。コンセプトは、イベントを一言で表すキャッチフレーズのようなものであり、参加者に期待感を抱かせ、体験全体を貫く統一感を生み出します。
- 例: 「五感で巡る〇〇地域の食卓」
このコンセプトは、その後の具体的な企画内容を検討する際の羅針盤となります。
4. 具体的な参加体験のアイデアを出す
コンセプトに基づき、「核となる体験」を実現するための具体的なアクティビティや参加の仕組みについてアイデアを広げます。ここでは、ブレインストーミングの手法などを活用し、自由な発想で様々な可能性を洗い出します。
- アイデア出しのヒント:
- 参加者が「操作する」「作り出す」「発見する」「交流する」「表現する」といった行動を促せないか考える。
- 五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)に働きかける要素を盛り込めないか考える。
- 驚きや感動、笑いといった感情を引き出す仕掛けを検討する。
最初は実現可能性にとらわれず、ターゲット参加者が最も喜ぶ体験は何か、という視点で多様なアイデアを出すことが重要です。
5. 体験ジャーニーを設計する
出されたアイデアを整理し、参加者がイベント全体を通してどのような流れで体験していくのか、「体験ジャーニー」として可視化します。イベントの開始から終了後まで、それぞれの段階で参加者がどのような行動を取り、何を感じるかを具体的に描き出します。
- 体験ジャーニーの例:
- イベントを知る(Webサイトを見る) → 期待感
- 申し込む(フォーム入力) → 手間かもしれないが、スムーズか
- 会場に到着する(受付) → 歓迎されていると感じるか
- オープニングを見る → イベントの世界観に引き込まれるか
- アクティビティに参加する → 楽しい、集中できる、新しい発見がある
- 他の参加者と交流する → 繋がれた喜び
- エンディングを迎える → 感動、余韻
- イベント後(SNSで投稿、振り返る) → 良い思い出として共有したい
このジャーニーを描くことで、参加者がつまずきそうなポイントや、もっと感情を揺さぶるチャンスが見えてきます。それぞれの段階で、参加者にどのような体験を提供したいかを詳細に設計していきます。
小規模イベントでも実践できる体験設計のヒント
大きな予算や大規模な仕掛けがなくても、体験設計の考え方は十分に活かせます。
- 「物語」を取り入れる: イベント全体や各アクティビティにちょっとした物語性を持たせることで、参加者はより感情移入しやすくなります。簡単な設定やキャラクターを用意するだけでも効果があります。
- 参加者同士の交流を促す仕掛け: 自己紹介カードや、共通のテーマで語り合う時間、協力して何かを完成させるワークショップなど、自然な形で参加者同士の繋がりを生み出す仕組みをデザインします。
- 五感に訴えかける工夫: BGM、会場の装飾、香り、ちょっとした軽食など、五感に働きかける要素は、体験の質を大きく高めます。例えば、テーマに合わせたオリジナルのドリンクを提供するなども有効です。
- 「できた!」という成功体験: 参加者が何かを完成させたり、課題をクリアしたりする体験は、大きな満足感につながります。難しすぎず、でもほどよい達成感があるレベルで設計します。
まとめ:体験設計は共創の第一歩
参加型エンタメにおける体験設計は、イベント運営側の視点だけでなく、参加者の方々の視点に立って「どのような体験を届けたいか」を深く考えるプロセスです。このプロセスを経て初めて、参加者が自ら関わり、共創していくための土台が生まれます。
まずは、今回ご紹介した基本的なプロセスを参考に、皆さんが企画するイベントの「核となる体験」は何なのか、それを誰に届けたいのか、そしてどのようにすればそれが実現できるのか、じっくりと考えてみてください。
具体的な企画内容や運営方法については、今後の記事でさらに深掘りしていく予定です。体験設計という視点を持つことが、参加者にとって忘れられない特別なイベントを作り上げるための強力な一歩となるでしょう。