共創エンタメをさらに深める:参加者の「声」を引き出すファシリテーション実践術
共創エンタメの企画を考える際、参加者の方々が積極的に関わり、自らのアイデアや意見を出し合う「声」が、体験の質を大きく左右する重要な要素となります。しかし、どのようにすれば参加者の皆さんが安心して、そして主体的に発言してくれるのか、悩むことも少なくないかもしれません。
この記事では、共創型エンタメ体験をさらに豊かなものにするために不可欠な「ファシリテーション」の基礎と実践的なテクニックについてご紹介します。イベント企画のアシスタントとして、日々の業務に役立つ具体的な視点やヒントを見つけていただければ幸いです。
ファシリテーションとは何か:共創エンタメにおけるその本質
ファシリテーションとは、会議やワークショップなどの場で、参加者間の対話や協働を促進し、合意形成や課題解決へと導くための働きかけを指します。単に進行役を務めるだけでなく、場の空気を作り、全員が安心して発言できる環境を整えることが求められます。
共創エンタメにおいては、ファシリテーションは参加者一人ひとりの主体性を引き出し、それぞれの多様な視点や創造性を結びつけるための「デザイン」の一部と考えることができます。参加者が「自分ごと」としてイベントに関わり、自らの「声」が体験を形作っていく喜びを感じられるよう、導くことがファシリテーターの重要な役割です。
参加者の「声」を引き出すための基本スキル
ファシリテーションには、いくつかの基本的なスキルがあります。これらを意識的に使うことで、参加者の方々がより発言しやすくなります。
1. アイスブレイクの活用:場を和ませ、心理的安全性を高める
イベント開始直後や、セッションの切り替わりで、参加者の緊張をほぐし、お互いの距離を縮めるための手法が「アイスブレイク」です。簡単な自己紹介、短いゲーム、共通の話題を見つける問いかけなどが効果的です。
- 例: 「今日このイベントに参加した目的を、一言で隣の人に話してみましょう」
- ポイント: 短時間で、失敗を気にせず楽しめる内容を選び、全員が平等に参加できる機会を提供します。
2. 質問の技術:対話のきっかけと深掘り
質問は、参加者の思考を促し、意見を引き出すための強力なツールです。
- オープンクエスチョン: 「どのように感じましたか?」「なぜそう考えますか?」のように、答えが限定されない質問は、参加者の自由な発言を促します。
- クローズドクエスチョン: 「はい」「いいえ」で答えられる質問は、事実確認や状況整理に有効ですが、多用しすぎると対話が広がりにくくなります。
- 問いかけのタイミング: 参加者が考え込んでいる時にヒントを与える、複数の意見が出た後に共通点や相違点を尋ねるなど、状況に応じて質問を調整します。
3. 傾聴と受容:発言を尊重し、安心感を育む
参加者の発言を丁寧に聞き、その意見を受け止める姿勢は、信頼関係を築く上で不可欠です。
- アクティブリスニング: 相手の言葉に耳を傾け、頷きやアイコンタクト、復唱(「〜ということですね」)で、理解していることを示します。
- 非言語コミュニケーション: 優しい表情、開かれた姿勢で、話しやすい雰囲気を作ります。
- 価値判断をしない: どのような意見であっても、まずは「良い」「悪い」といった評価をせず、そのまま受け止めることで、参加者は安心して発言できるようになります。
4. 視覚化の活用:意見を共有しやすくする
出た意見をホワイトボードや模造紙、付箋などで目に見える形にすることで、情報の整理がしやすくなり、参加者全員で共有しやすくなります。
- 例: 参加者のアイデアを付箋に書いてもらい、グループ分けしながら模造紙に貼り付けていく。
- ポイント: 字は大きく読みやすく、簡潔にまとめることを意識します。
実践に役立つ具体的なテクニックと事例
これらの基本スキルを踏まえ、具体的な場面で役立つテクニックをご紹介します。
1. 意見を募る場面での工夫
- ワールドカフェ: 小グループで対話を繰り返しながら、意見を深めていく手法。メンバーを入れ替えながら、多様な視点を取り入れます。
- ブレーンストーミング: 自由な発想を奨励し、批判せず、量を重視してアイデアを出し合う。視覚化ツールと組み合わせることで、さらに活発な意見交換が期待できます。
2. 対立意見への対応
多様な意見が出る中で、時には対立する視点が出てくることもあります。その際、ファシリテーターは仲裁者ではなく、「対話を促す」役割を意識します。
- 本質を理解する問いかけ: 「なぜそのように考えますか?」「その背景には何があるのでしょうか?」と尋ね、意見の根底にある価値観や目的を理解しようと促します。
- 共通点・相違点の明確化: 出た意見を整理し、どこが同じでどこが違うのかを視覚的に示すことで、参加者自身が状況を客観視できるようになります。
3. 沈黙への向き合い方
議論中に沈黙が生まれることもありますが、焦ってすぐに言葉を埋める必要はありません。
- 「考える時間」と捉える: 参加者が意見を整理したり、深く考えたりしている時間と捉え、数秒から数十秒の沈黙は許容します。
- 問いかけを再確認する: 「先ほどの問いについて、何か感じたこと、考えたことはありませんか?」と、改めて問いかけを提示することで、発言のきっかけを与えます。
事例:小規模ワークショップでのファシリテーション
例えば、「地域の魅力を再発見するアイデアソン」のような小規模なワークショップでは、以下の実践が考えられます。
- 導入: 参加者同士で「地元で一番好きな場所」をテーマにアイスブレイク。
- アイデア出し: 少人数のグループに分かれ、地域の課題と魅力を自由に付箋に書き出し、模造紙にマッピング。ファシリテーターは各グループを回り、「他に何かありますか?」「なぜその課題が気になりますか?」とオープンクエスチョンで促します。
- 発表・共有: 各グループがまとめたアイデアを発表し、全体で共有。異なる意見が出た際には、ファシリテーターが「この二つの視点は、どのように結びつけられそうでしょうか?」と問いかけ、新たな視点を探る対話を促進します。
- まとめ: 出た意見を整理し、実現可能性の高いアイデアをいくつか選定。次への行動につながるような言葉で締めくくります。
「デザイン」としてのファシリテーション:体験を形作る視点
ファシリテーションは、単に場を回す技術ではなく、参加者にとって「どのような体験を提供したいか」を意識したデザイン行為でもあります。
- セッション全体の流れをデザインする: どのタイミングで、どのような問いかけをし、どのようなツールを使うか、事前にシナリオを描きます。
- 場の雰囲気をデザインする: 物理的な空間(レイアウト、照明)だけでなく、心理的な安心感(肯定的な言葉遣い、挑戦を促す姿勢)も意識します。
- 共創のプロセスをデザインする: 参加者が「自分たちの手で何かを創り上げた」という実感を持ち帰れるような、達成感のあるゴール設定やプロセスを組み立てます。
まとめ:今日から始めるファシリテーションへの一歩
共創エンタメにおいて、参加者の「声」を引き出すファシリテーションは、イベントの成否を握る重要な要素です。イベント企画のアシスタントとして、まずは今回ご紹介した基本スキルを意識し、日々の業務や小規模な打ち合わせから実践してみてはいかがでしょうか。
「問いかける」「傾聴する」「視覚化する」といった小さな一歩が、参加者の方々が安心して発言し、主体的に共創に参加できる場を育むことにつながります。経験を重ねるごとに、より深く、より魅力的な共創エンタメ体験をデザインできるようになるでしょう。この「共創エンタメ・デザインラボ」が、あなたの学びと実践の力となることを願っています。